だから―貴方のことが好き
2006年 05月 01日
待てど暮らせどならない電話。
どうせいつものことだと諦め半分、けれど諦めきれない心も半分。
「…って云うか、どうしてあの人はこう仕事一図なんだろう…?」
素朴な疑問に自然と自分の眉が誰かのように顰められているのを、はっと自覚して、いやいや…それでも、だからさ…などと訳の解らない云い訳なんてのをしてみる。
でも正直、ちょっと寂しいのだけれど。
荷造りは万全!いつでも旅立てるよ、俺!的に、目一杯テンションを高めようと努力はしているのだけど、ならない電話はそんな意欲さえ萎えさせる。
覚悟はしているけれど、そこはそれ、愛情の深さが邪魔するのよ―哀しい性だね。
そんなフレーズの詩まで勝手に作って、今日も大人しく電話の前で蹲って。
以前の自分ならば絶対に有り得ないのである。
そんな、誰かを辛抱強く待つなんて行為。
「あぁ…もう、ダメだ…」
萎える心はそんな独り言を吐き出させつつ、けれど動きそうもない自分の躯は何て恋人に従順なのか?
こくりと首を傾げて、自分のことなのにまるで他人事のようにそう思ってしまうのは、これも愛情の為せる技?
ごろり―。
フローリングに躯を寝そべらせて、じっとその瞳はならない電話機を見詰めて。
他人が見たらきっとこの青年は「犬」以外の何者にも見えないかも知れない。
大きな尻尾をゆらりと振って、ご主人様の帰りを待つ。
―が、しかし如何せん、人間であるからして。
言葉と指というものを持っているからして。
シビレを切らしてとうとう、電話をかけようと起き上がった矢先。
プルルルルル―!
待ちに待った福音が鳴り響き、喜び勇んで受話器を手に取れば。
愛しい人の声がするりと耳に入り込んでくる。
「すまんっ…今、出たとこだ…」
その言葉がその先、どう紡ぐのかなんてどうでも実は良くって、もう声だけ聞ければ嬉しいのだから、相当“恋人欠乏症”に陥っていたのだが。
「一時間後に、空港に着けるはずだから…」
荷物を持ってきてくれ―と。
とんでもないご褒美をくれたりするから、やっぱりご主人様が大好きなんだと、犬のような青年は雄叫びをあげたりするんです。
その返事は「ワン!」だったか、何だったか…。
それは二人だけの秘密?
ああ―だからやっぱり貴方のことが好き。
by kaoru_ichijyo
| 2006-05-01 23:43
| 空我